作ってみたら最高だった! 自作PCにハマったミュージシャン・ビッケブランカさんに聞く自作PCの魅力
ファルセット・ヴォイスを武器に、ポップチューンから心に染み入るバラードまで変幻自在に歌い上げるシンガーソングライター・ビッケブランカさん。実は、趣味が自作PCと公言するほどの自作PCユーザー。自作PCにはまったきっかけやその魅力、楽曲制作に必要な機器へのこだわりについてお伺いしました。
ビッケブランカさん
独創的なピアノスタイルとジャンルレスな作風、美しいファルセット・ヴォイスが魅力のシンガーソングライター。2016年メジャーデビュー。18年、2ndアルバム「wizard」収録曲「まっしろ」がドラマ「獣になれない私たち」の挿入歌に抜擢。翌年、SpotifyのTVCM曲「Ca Va?」が話題に。8月19日に発売予定の4thシングル「ミラージュ」は、カンテレ・フジテレビ系ドラマ「竜の道 二つの顔の復讐者」オープニング曲。
Twitter:@VickeBlanka
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCWDksMO8R0Mew4B89GhO9dA/videos
オフィシャルHP:https://vickeblanka.com/
はじめてのPC体験は「バーチャコップ」
──はじめてPCを触ったのはいつ頃ですか?
小学校1年生くらいですね。自宅にあったWindowsのデスクトップPCだったかなと。CD-ROMを入れて遊ぶ「バーチャコップ」(※1)というゲームソフトをやっていて、キーボードでバンバンピストルを撃っていました(笑)。
(※1)セガが開発したシューティングゲーム。1994年のアーケード版に続き、セガサターンやWindows向けに移植された。
そこからもう、パソコンを使っていない時期はないですね。ゲームはもちろん、モデムから電話をかけて「ピー、プルルルー」とつながる時代からインターネットも使っていましたし。母親が仕事でインターネットで海外とやりとりしていたこともあり、ほかの同級生と比べるとインターネット環境が充実していたと思います。
──自分のPCを持ったのはいつ頃ですか?
たぶん、高校生くらいじゃないかな。ノートパソコンを買ってもらったか、使わなくなった物を譲り受けたかだったと思います。当時はインターネットよりはワープロ機能を使って文章を書いたり、ゲームを作れるソフトを使って格闘ゲームを作ったりしていました。あとは「ばくばくアニマル」(※2)などのパズルゲームをやっていましたね。
(※2)セガが開発した落ち物パズルゲーム。1995年にアーケード版が登場し、その後Windows版もリリースされた。
──インドア派だったのでしょうか。
いえ、家にいるときにはやっていたという感じです。外にいって魚を捕まえたり、野球をしたりもしていました。あとは中学生になると、PCではなく、MTR(マルチトラックレコーダー)という器材を使って多重録音などをして音楽制作もしていました。
──中学の頃から音楽制作を始めていたのですね。
MTRを使って声を入れたり、ギターを弾いたり、ドラムみたいなものを叩いたり。初めて音源化したのが中学生の頃です。作曲ということだけで言うと、ピアノ曲を小学生の頃から作っていました。
──それは早い。音楽を始めたきっかけはどんなことだったのでしょうか。
「なんとなく好きだなあ」と思って始めた感じです。歌うのも弾くのも好きでした。それで自然と自分でもやりたいと思うようになったんです。「これを機に志した」みたいなものが明確にあったわけではないんですよ。
──PCで音楽を作るようになったのはいつ頃ですか?
それは大学生になってからです。はじめはMacbook Proで制作していて、メモリーは8GBくらいでしたね。
──ソフトは何を使っていたんですか?
「Pro Tools」(※3)です。それでずっとやってきたので、もう違うツールに移れない(笑)。「Cubase」などもありますけど、他のソフトはシステムが全然違うんですよ。
(※3)アビッド・テクノロジー社が設計開発及び販売しているデジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)用のソフトウェア。音楽業界で最も普及している業界標準ツール。
──そもそもデジタル系のツールはお好きだったのですか?
そうですね。ガジェット好きでした。でもお金がないので、憧れるけど買えないという状態でしたが(笑)。ナチュラルにオーガニックに生きていきたいというより、最先端の機器を使ってみたいという気持ちは強いです。
きっかけは一目惚れしたPCケース「Manta」
初めて作ったPC「NZXT MANTA」
──音楽制作の作業をMacから自作PCに移行したのはどのような流れだったのでしょうか。
Macbook Proは5年くらい使ったのですが、動作が重くて、プラグインやソフトシンセも動かなかったり、落ちたりするようになったので、そのあとにMac miniをモニタつないで使っていたんです。それは2年くらい使いましたね。
でもやっぱりProToolsが重いんです。快適に動かないのは、メモリが足りない、プロセッサのコア数が足りないといった理由がわかってきたんです。それで、快適に作業できるMacを買おうと思ったのですが、あまりに高額で。僕が求めているスペックだと高すぎるんです。そこで最新のiMacを買うかMacbook Proを買うかと悩んでいたときに、たまたまインターネットの自作PCについての記事を読んだんです。
自分でパソコンを作るなんてあり得ないと思っていたのですが、意外にシンプルな作業だったので、「やってみたい!」と。調べていくと、メモリも増やせるしケースも選べる。マザーボードなどの組み合わせも自由だとわかってきて、僕の中のメカニカルな部分が燃えました(笑)。
ただひとつ、Pro ToolsのWindowsのサポートが限られた機種に限定されていたんですよね。動かなくても保証がないというところが懸念点だったのですが、とりあえずやってみようと。それで作ってみたら、最高でした!(笑)
──自作PCの知識はどのようにして習得したのですか?
パーツショップの店員さんに教えてもらったんです。それを頭に入れて、徐々に知識を増やしていったという感じです。
システムというか、仕組みさえわかれば大丈夫だなと。店員さんに質問するときも、「どのパーツがいいですか?」ではなくて、「なぜ動くんですか?」ということを中心に聞きました。そういうマニアックな話が大好きな方だったので、どんどん教えてくれて。僕もきちんと「学ばせてください!」と伝えたので、すべて教えてくれました。
──価格はかなり抑えられたのでは?
そうですね。最初は入門用にminiITXで作ったんです。そこからハマってもっとハイスペックなものを作ろうと思っていたときに、たまたま出演したラジオ番組の企画で、「好きなランキングを作ってください」というのがあって。他の方は「夏ソング」とか「イタリア料理のメニュー」とかなのに、僕は「好きなPCパーツメーカー」にしました(笑)。「そんなの誰もわからないよ!」というような内容ですよね。
そのとき、好きなメーカーに、NZXT、ASUS、Corsairを挙げたのを、たまたまASUSの方が聞いていて、「パーツを提供します」という連絡をいただいたんです。だったらもっとおもしろいことをしましょうと僕から提案して、ASUSさんと一緒に自作PCを作って動画をアップしたんです。そのときに作ったパソコンのパーツも提供していただいて。すごく嬉しかったですね。
──拝見しました。おもしろい企画ですよね。
第一回は、もともと使っていたNGXTのMantaというケースはそのままで、中のパーツを入れ替えるという企画だったんです。
このMantaというケースはひと目見てすごく気に入って、このケースでなら自作をしたいなと思ったんですよね。でも、少し前に販売されたものだったので日本のどこを探してもなくて。探し回って、ようやくポーランドで見つけたのでネットで輸入したんです(笑)。
──ポーランドから!すごいですね。
ASUSさんとの動画でMantaも最高のPCになったんですけど、今使っているPCは、その後、さらにASUSさんとコラボレーションして、作った自作PCです。動画の公開はこれからなんですけど。
2台目のPCケースはASUSさんから提供していただく予定だったんですけど、ケースだけは自分の趣味で選びたいなと思い、2台目のケースはオーストラリアから輸入しました(笑)。
──今度はオーストラリア!
NZXTのH440というケースで、このケースの黒や黒赤は日本にもあるんですが、僕が欲しかったのは白に紫という配色で、日本になくて。オーストラリアのeBayで見つけてようやく買えました。
特に初心者の方は愛するケースに出会えるかが重要だと思います。やっぱり見た目は大事です(笑)。
ASUS「X299 Edition 30」を乗せたPC
──確かに最初のMantaよりもクールな印象です。
Mantaはパワーアップしたものの、Mini-ITXケースだったので、メモリ搭載量に制限があったんですよね。第二弾として作ったのは、ATXのマザーボードでメモリも64GB積んでいます。CPUもi9で、グラボはGeForce 2080Tiだしと、最強です!
あとは水冷でNZXTの「クラーケン」がついています。以前、ライブで大阪に行っていたときに、たまたま自メーカーやショップが出展する自作PCのイベントがやっていたんですよ。それをTwitterで知って、ライブ終わりにメンバーと一緒に行きました(笑)。
そのイベント会場でASUSのブースにいったら、いつもお世話になっている方が、NZXT好きな僕をNZXTさんに紹介してくれて。そのときに水冷のキットをプレゼントしてもらったんですよ。すごいですよね!……ってこんなマニア話でいいんですかね?(笑)
──問題ありません(笑)。最強のPCのこだわりや気に入っているところを教えてください
やっぱりまずは見た目です。LED周りのメモリを光らすということは重要なんですけど、パチンコ台みたいにギラギラさせるのは僕の趣味ではないので、いかにクールに仕上げるかにこだわりました。僕にとっては見た目がカッコいいことが重要なので。
性能はもう、ASUSさんが最強の設定で積んでくれましたから。どんなゲームでもスムーズです。モニター、ゲーミングキーボード、ゲーミングマウス、ゲーミングマウスパッドも含めて最強です!(笑)
CPU | Intel | Core i9 9960X |
メモリ | G.SKILL | 64GB |
マザーボード | ASUS | PRIME X299 EDITION30 |
GPU | NVIDIA | GeForce RTX 2080 Ti |
SSD | Intel | SSDPEKNW010T8 1TB |
話し始めたら止まらない! 周辺機器へのこだわり
配信用の撮影機材にもこだわった充実のデスク周り
──音楽制作をする場合はどのパーツの強化が大切ですか?
メモリとCPUですかね。必要な要素はあまり多くなくて、CPU、メモリ、ゲームをする人ならグラボくらいですよね。それに付随して、グラボやメモリを冷やしたり、光らせたり。あとはマザーボードの性能という話です。だからすごくシンプルなんだなと。実際に作るときも迷わずにすんなりできました。ASUSのパーツは間違わないような作りになっているのもあって、楽しく作れました。
──周辺機器にもこだわりはありますか?
いいんですか? そんなことまで話して。長くなりますよ(笑)。マウスですが、これはゲーム用でROCCATっていうドイツのメーカーの「Kone Pure Ultra」という製品です。反応が早くて、フォートナイトなどのゲームをやっているので、ゲーム用に買いました。
ROCCATの光学式ゲーミングマウス「Kone Pure Ultra」
モニターは240Hzのゲーミングモニターで、ASUSさんのものです。これもゲーム用として選んだのですが、高性能のものは音楽の制作スピードもあげてくれるんです。波形の編集や切り替えも速いし、すべてが快適です。
ASUSのハイスペックモニター「PG258」
マウスパッドはSteelSeriesで、キーボードはCorsairです。このキーボードは、日本だとかな表示のものしかなかったので、英語配列のものをイギリスから輸入しました。かな表示じゃないものが欲しかっただけなんですが、それだけで5000円くらい余計にかかっています(笑)。
音楽機材でいうと、DOEPFERの「POCKET CONTROL」という器材があるんですが、これも生産が終わっていたのでビンテージです。デザインに一目惚れして買いました。このほかにも空路でオランダからうちに向かっている機材もあります(笑)。
DOEPFERのヴィンテージMIDIコントローラー「POCKET CONTROL」
珍しいものを手に入れるのが好きなんでしょうね。コレクター気質が根っこにあると思います。誰も使っていないけど高機能なものを見つけて、何が何でも手に入れるという性質があるのかなと。
スピーカーも今はソニーとヤマハのものが並んでいますが、さらにKEFのビンテージの「MODEL 303.3」がラスベガスから空路でうちに向かっています(笑)。
自宅レコーディング用マシン「Empirical Labs Distressor」「Shelford Channel」
──完全にマニアですね(笑)。スピーカーなどを海外で購入する場合、音はどのように見極めるのでしょうか?
スピーカーを作っているメーカーはそう多くはないので、ある程度はメーカーへの信頼度で選んでいます。それは、ほかの器材系、ガジェット系、パーツ系でも同じです。今まで製品を使った感覚で、このメーカーのものは信頼できるというものを買うようにしています。自作PCで言うと、ASUSさん、NZXTさんの2社が好きですね。
LEWITTのコンデンサーマイク「LCT 540 S」
自作PCは「吉野家」みたいなもの!?
ビッケブランカさんがこだわり抜いて作った制作環境
──自作PCライフをとても楽しんでいらっしゃいますね。
自作PCは吉野家みたいなものというか。まず「安い」。すでにできているPCを買うよりも安くスペックの高いものを作れる。そして、スペックが高いから「速い」。メモリもふんだんに載せているので、プラグインを同時にたくさん立ち上げてもまったくスピードが落ちません。「うまい」はケース周りを自由に変えられる旨みがあるというところですよね。自作にはいいところしかないなあと思います。
──初心者の方はむずかしいと思ってしまいそうですよね。
僕は全然そんなことなかったですし、自作PCを普及させるには、「自作はややこしい」と言ってはいけないと思うんです。実際に簡単にかわいいPCが作れますし。
女性がメイクするのと一緒かなと。何色のどこのブランドのチークだとか、今のトレンドの最新カラーとか、みなさん自分の肌の色にあったものを選ぶじゃないですか。そういうことと同じ感覚じゃないかなあ。それを楽しいと思えるかどうかです。
プラモデルのような感覚もあるので、男性は大体の方が好きな作業じゃないかなと思うんですけど。
──これから始めたいと思っている方にアドバイスをするとしたら?
作りたい人は僕にDMしてください!(笑)簡単ですから。自作PCは本当に素晴らしいので、なんとか盛り上げていきたいと思っているんです。PCパーツメーカーの方とお話しする機会も多いのですが、一緒に「どうやったら普及できるか、認知してもらえるか」などを一生懸命考えています。
これから大きくなる業界って、メーカーの垣根をなくしているんですよね。PCパーツ業界もそうで、すべてのメーカーが常に協力体制なんです。ライバル企業ではなく、この業界を盛り上げるためにいがみあっている場合じゃないと。そういう姿を見ているので、僕も一緒になって盛り上げていきたいなと。
──すっかりPC業界の人ですね。
パーツを作ってメーカーになろうかな(笑)。でも、本当に楽しいんです。高性能なお気に入りのものが作れるなんて、いいところしかないですよね。それをみなさんにもわかってほしいと思います。
最高の環境で「芯から生まれたもの」を表現したい
──新しくリリースする楽曲もこのPC環境で制作されたんですよね。
そうです。何もかもが快適でした。音をたくさん重ねる癖があるので、いろいろなソフトシンセのプラグインを同時に立ち上げるんです。それもまったく問題なく、遜色なし!という感じでした(笑)。以前は「また落ちたよ」なんて思いながら制作していたので、快適な環境に大満足です。
──音楽制作をするときの流れを教えてください。
まず頭の中で最初に曲を作って、楽器も鳴らして、シンセも入れて、パンも振って、「いい曲だな」と思ったら、Pro Toolsに入れていきます。ドラムを作って、ピアノを作って、歌を入れて……という感じで。その過程で実際に再生してみて、「こっちのほうがいいな」と思ったら修正して、という作業で完成に向かいます。打ち込んでいく作業を一切邪魔しないのが今のPC環境です。
──しばらくはステイホーム期間中でしたが、音楽やクリエイティブのことで、どんなことを考えましたか?
本当に自分に必要なものが自粛している間にわかってきたかなと。「意外となくても困らなかった」とか、「前は一生懸命になってたけどこれは自分の人生にいらないな」とか、気づいた部分もありました。そう思った方も多いのではないかなと。
披露する場がないからこそ、自分の作るべき曲がわかった気もしています。テクニカルなことよりも、自分の芯から生まれたことを表現しようと思えた時期でした。
──今後の活動にも変化をもたらしそうですね。
大きい変化だと思います。すぐに聞いてもらえる場があったから、「こんな感じもやってみようかな?」と、いろいろと試しながら曲を作ってきました。それはそれで間違ってはいないと思っていますけど、「あと一回しか世の中に曲を出せない」となったときにはお試しで曲は作れないというか。自分の芯から出た「これが僕の生き写しです」というくらいの曲を作りたい。そうあるべきだなということをこの時期に感じました。
ライブも延期や中止でこの先まだどうなるかわかりませんが、発売延期になってしまったニューシングルが8月19日に出ます。まずはそれを楽しみにしていてください。
4thシングル「ミラージュ」2020年8月19日リリース予定
ミュージシャンとして第一線で活躍するビッケブランカさんですが、「自作PCのことだったらいつでも僕を矢面にだしてください」と、自作PCへの想いを熱く語ってくれました。「自作PCのことを話せる機会をもらえて嬉しい」これからの自作PC業界をさらに盛り上げてくれそうです。新しいPCを作った際にはまた取材させてください!