SNSの誹謗中傷コメントが社会問題に!アウトなコメントや法的責任は?
■リアルなSNSの今と誹謗中傷のコメント
誹謗中傷で自殺した事件が社会問題に
2020年、女性タレントがSNSで悪質なユーザーからの誹謗中傷に耐えかねて、自殺してしまうというショッキングなニュースが広まりました。テレビのバラエティ番組で活躍していた女子プロレスラーで、差別的発言を受け続けて自ら死を選ぶという、最悪の結果になってしまったのです。
もともとごく一部の心ないユーザーが、女性タレントの外見や言動について嫌がらせやネットいじめを繰り返していました。そこに、一般のユーザーも加わって、結果、彼女のSNSを取り巻く環境は針のむしろのような状態に。メンタル的に行き場を失ってしまい、自殺したとされています。
タレントなど有名人への誹謗中傷が後を絶たない
ここ数年、SNSを中心に芸能人を誹謗中傷するケースが増加しています。ちょっとした言葉の揚げ足取りをあたかも本人が差別的な表現をしたとSNSで拡散して炎上させたり、シンプルに告知や宣伝をしただけで「金のためにやっている」「ファンを儲けの道具としか考えていないのか」など、やっかみレベルとはとうてい思えない悪質な嫌がらせをしたりなど、深刻化するばかりです。
とくに、拡散・炎上しやすいTwitterではその傾向が顕著で、芸能人のなかにはアカウントを閉鎖してInstagramなど他のSNSでネット上の活動を行ったり、直接ファンのユーザーに理由を訴えてSNSをしないと宣言したりしています。ほんの一部のユーザーのおかげで、芸能人本人にとってもファンにとっても楽しみのSNSが使いづらい時代に入ってきました。
一般人への誹謗中傷も増えている
SNSで誹謗中傷の被害に遭うのは、芸能人や有名人ばかりではありません。たとえば、不正をした会社名に似ているからといって、まったく関係のない他社がSNSで批判の的にされ、誤った抗議の電話が鳴り止まないというケース。テレビで放映された犯罪を捉えたニュース映像に登場する加害者やその場にいた家族・友人に、単に似ているからという理由だけでまったくの第三者の個人情報がさらされて、差別的発言を受けるといった事例。
一般人も一夜にしてSNSの炎上の餌食になるリスクが高まっています。
■違法な情報と有害な情報
ネット上で問題となる情報には、「違法な情報」と「有害な情報」の2種類があります。それぞれの特徴やちがいなど知っておきたいポイントを押さえていきましょう。
違法な情報
特定の個人や法人の権利を侵害する「権利侵害情報」と、その他の違法な情報があります。
・権利侵害情報
主に次の3つのタイプがあります。
1.名誉毀損:「●●クリニックの△△医師はヤブ医者だ」
2.プライバシー侵害:住所や電話番号など個人情報を勝手にネット上で拡散する
3.著作権侵害:音楽や動画ファイルを許可なく配信する
一方、その他の違法な情報には、刑法違反に当たるわいせつ画像を配布したり、医薬品医療機器等法違反になる危険ドラッグの広告を掲載したりすることなどが該当します。
- 違法ではないが有害な情報
権利侵害情報には当てはまらないものの、誹謗中傷する表現が中心です。公序良俗や善良の風俗を害する情報も含まれます。
例)
・「××はウザいから消えろ」
・死体画像を配信するなど人の尊厳を傷つける情報
・自殺を促すコメント
また、青少年に有害な情報もインターネット上では問題となります。アダルトコンテンツをはじめ出会い系への誘導、ギャンブルや暴力的表現などがその例です。
ネット事業者や行政の取り組みは?
では、こうした違法な情報や有害な情報に対して、啓発活動をはじめ業界団体の対応や、行政による対応はどのようになっているのでしょうか。
・権利侵害情報
「プロバイダ責任制限法及び関係ガイドライン」に則って、プロバイダ事業者が情報の削除など自主的に対策を行っています。また、発信者情報開示をして、加害者を特定。訴訟など被害者を救済する道筋もルール化されるようになりました。
・その他の違法な情報
ガイドラインに従って、法的に厳正に対処されます。
・誹謗中傷情報や公序良俗違反情報
「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項」に従って、対策が講じられています。
・青少年に有害な情報
「青少年インターネット環境整備法」のもと、青少年に好ましくないネット上のコンテンツを制限するフィルタリングサービスの提供を、行政や業界団体レベルで促進しています。
このように、悪質化するインターネット上の違法な情報や有害な情報へ対策すべく、法律や業界のガイドラインの整備が進んでいて、社会全体で規制する動きが活発になっているのです。
■法的責任に問われるケースとは?
コメントした本人は軽い気持ちであっても、ひとつの誹謗中傷の発言が社会的な問題に発展し、責任を追及される可能性もあります。
ここでは誹謗中傷コメントが、とくに法的にどのような問題になるのか、詳しく見ていきましょう。
プロバイダ責任制限法
誹謗中傷コメントがなされたプロバイダにもある程度責任があると考えられるようになりました。2001年に制定された「プロバイダ責任制限法」のポイントは「プロバイダ等による削除等の対応促進」と「発信者情報開示請求権」の2つです。
本来、誹謗中傷など他人の権利を侵害する情報の第一の責任は情報の発信者、つまりコメントした本人にあります。しかし、プロバイダ事業者も情報を掲載したまま放置したことを理由に、被害者から損害賠償請求をされる可能性があります。しかし、あらゆるコメントをチェックし、プロバイダが過剰に削除をしてしまうと、表現の自由が制限されるリスクも生まれます。反対にコメントをした発信者から表現の自由を侵害されたと損害賠償請求をされる可能性も生まれるのです。
そこで、プロバイダ責任制限法では、プロバイダが取るべき範囲を明確にしました。「被害者からの申出を受けて情報を削除するかどうか対応する」「一定のルールのもとで削除すれば発信者に対する責任には問われない」という内容です。さらに、被害者が匿名の発信者を加害者であると特定して、損害賠償責任の請求ができるように、発信者情報開示請求権も定めています。
このように、誹謗中傷のコメントの取り扱いは、ただプロバイダが削除すればいいというものではありません。被害者の権利侵害にも配慮しつつ、表現の自由も守らなければならない、デリケートな対応が求められるのです。
刑事責任と民事責任
誹謗中傷のコメントに対する法的責任としては、刑事責任と民事責任の両方が考えられます。
・刑事責任
名誉毀損罪は、たとえ内容が真実でも不特定多数の第三者の前で相手の社会的な名誉を傷つけ低下させるおそれのある行為をしたときに当てはまります。
刑法230条で定められていて、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金です。
・侮辱罪
「バカ」や「ヤブ医者」など、名誉毀損罪とちがって事実を提示せずに他人の社会的な信用や評価をおとしめるおそれのある行為に対する罪です。(刑法231条)
・不法行為責任
第三者を誹謗したり、中傷したりする表現をネット上で行うと、民法709条の不法行為に当てはまる可能性があります。被害者から不法行為に対する損害賠償請求を受けることも。
ネット上の悪質なコメントに対する損害賠償では、精神的な苦痛に対する慰謝料、加害者である情報発信者を特定するためにかかった弁護士費用などをまとめて請求するケースが大半です。
誹謗中傷で法的責任に発展しないために気を付けること
安易な気持ちで発言したコメントで、多額の損害賠償請求を受けないためにも、次の2つのポイントに注意しながらインターネットを利用しましょう。
・SNSの炎上とは距離を置く
相手が有名人だからといって、誹謗中傷に相乗りしてはいけません。具体的な言葉でなくても、SNSの「いいね」やスタンプ、リツイートやシェアも、その書き込みに対する賛同やコメントに対する同意、あおりとみなされることがありますので、気を付けましょう。
とにかく、炎上している投稿やコメントには近づかないことが大切です。
・謝罪する
万一、気づかないうちに誹謗中傷のコメントや炎上に関わっていた場合は、できるだけ早く本人に謝りましょう。インターネット上では匿名で発言する場合も多く、相手の顔が見えないためつい発言がキツくなったり、度が過ぎる場合も見受けられます。刑事責任に発展する前に、明らかに自分に非がある場合は、真っ直ぐな気持ちで謝りましょう。そうすれば、それ以上の追求はされない可能性も生まれます。
一番良くないのは、そのままにして放置しておくことです。プロバイダに情報開示請求をされて匿名ユーザーが加害者として特定されれば、警察沙汰や裁判に発展することも。
謝罪の上で、必要があれば弁護士に相談し、示談を取り交わすことも必要になるでしょう。
■お気に入りのPC部屋で過ごす時間をより楽しむためにもルールに従ったSNS利用を
安易な誹謗中傷コメントは社会的に追求され、法的責任にまで発展する可能性があります。楽しいPCライフを送るためにも、最低限のSNSのルールを守って、ユーザー同士、気持ちの良いやりとりを心がけましょう。