Unite 2018潜入レポート② 今年の主役はXR:セッション編
Unite Tokyo 2018セッション紹介
前回の記事では、Unite Tokyo 2018のブース展示についてレポートしました。今回は、セッション(講演)のレポートをお送りしたいと思います。
とはいっても、60以上あるセッションのすべてをご紹介するのはさすがに大変……。前回の記事の最後でも言及したように、今年のUniteはXR(VR・AR・MR)コンテンツが主役という印象。そこで、XRに関係するセッションを中心にいくつかご紹介致します!
とても楽しい!HoloLensとUnity、テーマパークのMRゲーム開発について
まずは株式会社バンダイナムコスタジオによる、テーマパーク向けのMRゲーム開発についての紹介セッションをレポート。池袋にあるナンジャタウンで行われた、「ナンジャタウン×MRプロジェクト」の開発における知見が共有されました。
こちらはかつて大流行したレトロゲーム「パックマン」をリアルに楽しめる「PAC IN TOWN」。MRゴーグルをつけると自分自身がパックマンに。迷路の中でゴーストを避けながら、制限時間内にすべてのクッキーを食べてクリアを目指します。従来のパックマンファンはもちろん、初めてパックマンをプレイする人でもかなり楽しめそうな内容。また、現在のMRデバイスではなかなか難しい複数プレイヤーのスムーズな動きを実現しています。
登壇したディレクター/ゲームデザイナーの本山 博文氏は、このプロジェクトの開発の特徴として、「MRは現実世界にデジタル世界を重ねる技術であり、テーマパークのように環境を作り込んだ場所ではゼロから世界を作る必要はない。これにより、開発期間の短縮・コストの削減が見込める」と指摘。特に開発期間の短縮は、目まぐるしく変化するXR市場のスピードに対応できるということでメリットが大きいそうです。
また、後半はレベルデザイン(ゲームの難易度や環境の調整・設計)の話題も。MRの視野が狭くなりがちという特性も踏まえて、プレイヤーの頭部の上下の運動を抑制するよう敵キャラの動きを制御する、聴覚を利用するなどの工夫や、テーマパークならではの外乱音対策など、かなり具体的な話題にまで踏み込んでいました。
もう一つのプロジェクト「一網打尽!蚊取りパッチン大作戦」の蚊の動きの制御を例にあげて解説
HoloLens/Unityによる産業向けAR/VR開発の勘所とソリューション
お次はソフトバンク コマース&サービス株式会社と株式会社ホロラボによるセッション。HoloLensとUnityを使ったゲーム以外の応用例として、建設/土木などの産業での利用が紹介されました。建設や土木業で使われるCAD(computer-aided design、コンピューターによる設計支援ツール)の市場は非常に巨大で、大量に存在するCADデータとXRによる可視化や生産性向上の組み合わせは大きなビジネスチャンスに繋がるでしょう。ただ、CADとXRの結びつきはまだまだ普及していないというのが現状。
そこで登場するのがソフトバンク コマース&サービスとホロラボが共同開発した「AR CAD Cloud」。CAD/BIMデータをクラウドにアップロードすると、自動的に最適化の変換が行われ、AR/VRデバイスにダウンロードできるというサービス。今までになく簡単にCAD/BIMデータをAR/VRで活用できるようになります。
クラウド利用で初期投資が不要のため、利用の敷居が低いというのも特長の一つ
また、実際の建築現場や工事現場でのMRデバイスHoloLensの活用も紹介されました。
HoloLensでは現実に仮想空間を重畳できるため、実際の現場とデータとの比較を容易に行うことができます。また、スマートフォンと違って両手が空くことによる操作の優位性も指摘されていました。
一方で、変化しゆく現場にあわせて常に操作や位置合わせの調整を行わなければいけなかったり、鉄骨がむき出しのためWi-Fi環境が悪くなりやすく、事前にデータをHoloLensに入れてオフライン対応も行ったりするなど、屋外でMRデバイスを利用するシチュエーション特有の問題も紹介されました。
HoloLensは日光に弱いので屋外で使用する際はサンバイザーの取り付けも
また、HoloLensやWindows Mixed Realityデバイスでのアプリケーション開発については、日本マイクロソフトの高橋 忍氏によるセッションで詳しく紹介されました。
XR x AI Watsonで もっと拡がるUnity開発
さて、今までのXR中心のセッションとは打って変わった話題で、AIを利用したUnity開発についての話題です。IBMのエバンジェリストである佐々木 シモン氏が登壇し、IBMのAIブランドWatsonのクラウドサービスをアセットとしてUnityで使用できることが示されました。
このWatson API on IBM Cloudを利用するためにはIBM Cloud アカウント作成が必要。しかし、その登録にクレジットカードは必要なく、メールアドレスと名前を登録するだけで済むというお手軽さが特長です。APIの呼び出しも一定回数までは無料です。
実際、セッション中にアカウントの登録を呼びかけていました(笑)
このアカウントの登録さえ終わってしまえば、後はUnityのアセットストアで対応するアセットをダウンロードするだけ。その1つであるWatson Unity SDKでは、画像認識や音声認識、自然言語処理など何でもござれで、実に多様なWatsonのAI機能をAPI(汎用性の高い機能を手軽に呼び出せるようにしたもの)して利用することができます。このセッションのもう一つのテーマとしてXRとAI技術の融合がかかげられており、実際3Dオブジェクトを簡単に扱えるUnityでこのようなアセットが提供されていることは大変魅力的に思えました。筆者もぜひ使ってみたいと思ったものの一つです。
ユニティちゃんに話しかけて返答してもらうなどということもできちゃいます。またVR Watson Speech Sandboxというアセットを使えば、開発そのものもAIでサポートすることができます。実際に行われたデモでは、開発担当のスコット氏が「Create a large orange ball」とボイスコマンドを唱えると……
指定したオレンジ色のボールの作成が!これには思わず「おお!」というどよめきが。さらに「Destroy」のボイスコマンドでオブジェクトの消去も行えました。将来のUnity開発では、殆どキーボードやマウスを使わなくても済むようになるのかもしれません。
XRで心地よい3D体験を生むための、絵画的空間構成手法とUnityへの実装
最後はテクノロジーの話題ではなく、XRでのUI/UXデザインをテーマにしたセッションへ。既存のディスプレイ越しに見る2D・3D画面と違う独特のXRのUIをどのように設計すればいいのか迷う人も多いのではないでしょうか。登壇した株式会社ホロラボの岩本 義智氏はもともと絵画・イラスト制作をやられていた方で、絵画的なバックグラウンドからUX/UIデザインについての知見を述べるという独特なセッションが行われました。
まずは「遠近法」の話題。XRコンテンツは人間の眼の「両眼視差」「眼球運動」を利用して立体的に見せていますが、これだけでは経験や知識に基づく距離感と異なり、脳が満足してくれません。そこで、絵画的な単眼性の立体表現である「遠近法」を利用することでこれを補完していると岩本氏は指摘。その例として、実はWindows Mixed Realityの初期画面の「Cliff House」では様々な遠近法が巧みに使われていることが挙げられました。
天井に穴を開けることによってパースの線を作っています(線遠近法)
その次の話題は「感情を換気する視線誘導」について。視線の動きは人間の心理や感情と結びついており、これを利用することで潜在的なユーザーの意識をついたデザインが可能になるとのこと。例えば下図の画面において、番号が低い順に人間の視線が誘導されやすいことがわかっており、2や3の位置は自分に近いという印象をユーザーに与え、操作するべきコントローラーはこの位置に置くとよいそう。逆に、ユーザーに緊張感を与えたい場合は、わざとこのロジックを崩すことで、考えないと操作できないというUIを作ることが可能になるそうです。
このレイアウトは開発Tipsとして抑えておきたいですね
最後は、他人との関係性に応じて、その人との距離が決まるという「パーソナルスペース」と呼ばれる概念を用いて、いかにして体感を生む立体的なUIデザインを行うかという話題でした。ユーザーからの距離という観点で考えたとき、UIや各コンテンツの表示にはそれぞれ適したゾーンがあるとのこと。その配置を行った上で、例えばコンテンツがゾーンを横断するように動的な処理を与えたりユーザーが動くようにしたり換気することで、よりエモーショナルな効果をユーザーに与えることができるそうです。
なるほど、大変勉強になります。
まとめ 〜どんどんイベントに参加してみよう〜
繰り返しになりますが、今年のUniteのメインの話題はなんといってもXRでした。また、Unityのその汎用性の高さから、もはやゲームにとどまらず様々な用途のアプリケーション開発に用いられているということもわかりました。
Uniteに参加したのはこれが初めてで、一応開発者向けイベントということもあって果たして内容についていけるのか不安だったのですが、Uniteの公式ページにも書かれている通りUnity初心者やこれからUnityを覚えようという学生さんまで楽しめる雰囲気・内容でした。特に、セッションはBEGINNER / INTERMEDIATE / ADVANCEDと予め区分されており、自分のレベルに応じてセッションを聴講しに行ける親切設計でした。
セッションのスライドや当日の映像は一部を除いて公式に公開されています。ここでご紹介したもの以外も魅力的なセッションがたくさんありましたので、ぜひ覗いてみることをオススメします!
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