アニメーション作家・上甲トモヨシさんにインタビュー! ワクワクする作品を生み出す制作環境
クリエイターにとってPCは欠かせない道具です。多くのクリエイターは作業環境にこだわり、素晴らしい作品を生み出しています。
アニメーション作家の上甲トモヨシさんもPC環境にこだわるクリエイターのひとり。動画制作という大量のデータを扱う作業だけに、制作環境は常にアップデートが必要です。上甲さんは10年前から知り合いのエンジニアに依頼し、カスタマイズを繰り返しながら快適な環境づくりをしているのだとか。
今回は、実際に上甲さんの作業場にお伺いし、制作環境を見せていただきながら、使用PCや技術面でのこだわりやWindows環境を選択したメリットなどについてお話を伺いました。
■プロフィール
上甲トモヨシさん
Profile
1984年愛媛県に生まれ、2003年に東京工芸大学芸術学部アニメーション学科一期生として入学。在学中にアニメーション作家の古川タクに師事し、在学中からアニメーション作家としての活動を始め、数々の賞を受ける。パートナーの一のせ皓コさんとのユニット「デコボーカル」としての活躍も多数。http://decovocal.com/
Twitter:@TomoyoshiJoko
目次
動きを絵で表現する魅力に惹かれていった
──アニメーション作家になったきっかけについて教えてください。
大学選びをする際に、東京工芸大学芸術学部のアニメーション学科が第一期生を募集していたんです。一期生は面白そうだなというのと、高校生の頃にマンガを描いていたのもあり、この学部に入ったことが大きなきっかけになりました。
でも、アニメーションに詳しいわけではなかったんです。アニメと言えばテレビアニメやジブリ作品くらいの知識で、入学後にアニメーションの世界を詳しく知りました。そこから、さまざまな芸術表現ができるアニメーションの技法に多様性を感じて、どんどんのめり込んでいったんです。
大学でアニメーション作家の古川タク先生に出会ったことも大きなきっかけのひとつです。先生に出会ってアニメーション作家という職業があることを知り、先生の背中を見ながら、「こういう道を歩んでいきたい」と思って現在に至ります。
──はじめはマンガの道に進もうと思っていたのですか?
マンガも描いてはいましたが、もともと器械体操や陸上もやっていて、身体を動かすことも好きだったんです。でも、故障を繰り返して運動に限界を感じ、大学に入ってアニメーションの道に進もうと思いました。絵を描くことだけでなく運動も好きだったので、マンガよりも動きを絵で表現できるアニメーションに惹かれていったのかもしれません(笑)。
──それからどのような形でアニメーション作家になっていったのでしょうか。
タク先生のもとで仲間たちと面白い作品を作って切磋琢磨する中で、世界には面白い作品がたくさんあることを教えていただきました。
その後、僕と現在のパートナーである、一のせ皓コとともに大学院に進学し、引き続き先生に師事していたんです。当時制作した作品がコンペで上映されて賞をいただいたことがきっかけで、子ども向け教材のwebアニメーションなどの仕事もいただけるようになって。そこからアニメ―ション作家になれるという実感が生まれていきました。大学院修了後は非常勤講師として大学に残り、その傍ら、アニメーション作家として仕事をいただけるようになっていたんです。
学生時代の作品「雲の人 雨の人 -Mr. Cloud and Mr. Rain-」は、第11回文化庁メディア芸術祭で 『審査委員会推薦作品』に選出、第13回学生CGコンテスト で『佳作』受賞、東京国際アニメフェア2008/第7回東京アニメアワード入選、など多数の賞を受賞。
コミュニティが生まれて広がっていく
──現在のお仕事、最近取り組まれている活動について教えてください。
大学院を出てからちょうど10年になるのですが、この10年で仕事のスタイルもだいぶ変わりました。今も子ども向けのアニメーション制作は多いのですが、最近は子ども向けのワークショップをやる機会が増えています。
今、5歳と2歳の子どもがいるのですが、子どもを持つようになって改めて、子どもたちにアニメーションという表現を伝えるおもしろさを強く感じるようになったんです。
──ワークショップはどのような形で行われるのですか?
アニメーションといっても描くだけではなくて、例えば関節が動く紙人形を作ってコマ撮りをしたり、人間をコマ撮りしてアニメーションにする、ピクシレーションという手法もあります。描いて作るアニメーションだと、パラパラ漫画を作ることもありますし。ただの紙と鉛筆ではなく様々な紙や画材を使ったり、お題を出して描いたりとアイデア次第でいろんなことができます。
受講者は小学生くらいの子どもたちが多いのですが、反応がすごくいいですね。アニメーションを制作して上映会まで行うので、すごく盛り上がります。短い時間で作れるシンプルなものですが、それでもみんな楽しんでくれていますね。
ワークショップを行う中で、地域とのつながりも広がっていきました。今一番面白いと感じているのが、人とのつながりの中で生まれたコミュニティを大切に育てていくこと。地域でワークショップを開催して上映会を行い、アニメーションを通じて街全体が盛り上がっていくという活動に面白さを感じています。
──どういった場所で行われているのでしょう。
現在は地方都市が多いです。あるご縁で数年前から山梨県の北杜市でワークショップをやらせていただいていて、今年の夏もとても盛り上がりました。
それから、山梨県には市川三郷町という小さな街があって、そこが一のせの故郷なのですが、昨年、彼女が町の「ふるさと大使」に任命されたことで役所の方と一緒に盛り上げようといろいろ計画しています。
──お住まいの小金井でも活動されていますよね。
小金井にも何人か作家仲間がいて、彼らと一緒に自分たちの住んでいる街でも楽しみたいという思いから、小金井市の観光協会の方と連絡をとりました。それでワークショップなどの活動ができることになって。小金井市のほうでもいろいろなイベントを計画中です。
あとは、個人的にすごく好きな八重山諸島で何かできないかと、先日、小学校に訪問したり、地元の団体の方と話をしたりしているので、広がるといいなと思っています。旅が好きなので、いろいろなところを訪れつつ、仕事や活動ができたら楽しくなるんじゃないかなと思っています。
日本アニメーション協会の理事もやっているので、アニメーション文化を広げていく活動も意識しています。今後はアニメーション協会としても広くワークショップを行っていきたいです。
小金井市でのワークショップ「ぱらぱらっ!小さなアニメーションを作ろう」
好きなように組み合わせられるのが魅力
──それでは、PC環境を見せていただければと思います。現在の環境はどう作っていったのですか?
僕も学生のころは自分で調べながらアップググレードしていたのですが、だんだんと知識が追いつかなくなり、現在はプロの方にお願いして組み込んでもらっています。大学時代に学校のシステム管理をしていたエンジニアさんで、アニメーション業界をメインにお仕事されている方なので心強いです。
Windowsの良さは、箱から中身まで好きなように、予算やスペックに応じて組み合わせていけることですよね。現在のマシンも予算とスペックなどの希望を伝えて作ってもらいました。作業していく中でもう少しアップデートしたいと思ったら、その都度入れ替えながらカスタマイズしています。
◎上甲さんのPC環境
──スペックではどのあたりを重視しているのですか?
映像処理なので、作画やレンダリングなどが快適にできるように、メモリとCPUは高めにしています。だいたい何年かおきにPCの調子が悪くなるので、そのタイミングで予算とスペックを相談しながらパーツを決めてアップデートしています。
──今、アップブレードしようとしているパーツはありますか?
データを保存するハードディスクが外付けで何台もあるのですが、ケーブルもじゃまですし、管理も大変なので、そろそろNASにしようかと思っているところです。
増え続ける外付けHDはいずれNASに
──ひとつの作品でどれくらいのデータ量になるのでしょうか?
作品の情報量、フレームレートや画面サイズによっても違うので何ともいえないのですが、元の圧縮してないデータだと15分で150GBくらいになるものもあります。圧縮して5GBくらいでしょうか。
──やはり大きいですね。ソフトウエアなどの環境を教えてください。
絵を描くのはAdobe Photoshopで、それをAdobe After Effectsで合成しています。制作環境はこの数年で大きく変わりました。3〜4年前までは動画用紙に1枚ずつ手描きしていました。
──タブレットで描くようになったのは、この3〜4年なんですね。
すでにタブレットに移行している人も多かったのですが、僕の場合は紙に描くことにこだわっていて。紙で描いたものをスキャナーで取り込んでPCで作業していました。
──紙からデジタルに変えてみていかがですか?
あんなにこだわっていたのはなんだったのだろうという感じです(笑)。慣れるともう紙に戻れなくなりますね。消しゴムも使いやすいですし、消しカスも出ないですし。
紙で描いたものをスキャンしても、紙の質感などを消すためにトーンを調整したり、ゴミやシワをとったりといった作業があって、それも大変でした。例えば100枚スキャンして、Photoshopで100枚開いて、それを自動処理のコマンドである程度処理して、それから1枚1枚ゴミをとったりするとう、途方もない作業をしていましたから。
──それは大変そうです! そもそもアニメーションが作られていく工程を知らない方も多いと思うので、教えていただけますか?
まず、どんな作品を作るかを考えるところからはじめて、話の流れや演出を決める絵コンテを作成していきます。それからキャラクターを考えて、コンテができたらどう配置していくかを決めるレイアウトを作ります。例えば、10カットで1分の映像を作るとして、まず10カット分の静止画の絵の構図を作ります。
その後に尺を確認するためのビデオコンテを作ります。ビデオコンテは静止画のレイアウトを画面上に並べて、映像にしてわかりやすく確認するためのコンテのことです。そこまでできたらアニメートをします、アニメートとは動きのある絵、つまり動画を描く作業のことです。そのあとからAfter Effectsの作業になっていきます。一番時間がかかるのは、やっぱり動画を描く作業ですね。
──例えば、15分くらいの作品だと何枚くらい描くものなのでしょうか?
それも予算と時間によっても変わります。時間と予算があればじっくり、たくさん描けますから。6分の作品で5000枚描いているのもあれば、15分の作品で2000枚と、まるで違ってくるんです。作風によってはあまり動かさなくていいものもあるので、5分の作品で100枚くらいのときもありますね。
なので、予算次第で動きを省略して描く枚数を減らすなど、テレビなどの現場ではさまざまな工夫がされています。今はデジタルで静止画を動かすこともできるのですが、それも見るとわかってしまうんです。きちんと描いて動かしている作品とは、やはり見たときの感動が違います。
個性を生かしながら活動する「デコボーカル」
パートナーの一のせ皓コさんと上甲さん
──パートナーの一のせ皓コさんと一緒にアニメーションの制作をされているということですが、役割分担はどのような感じなのでしょうか?
デザインやアイデアは一のせの担当で、僕はその他のことをやっているという感じです。まず、僕が窓口となり、お仕事の依頼が来ましたら打ち合わせをして、それを持ち帰って二人でアイデアを出し合います。
作品にもよりますが、彼女が固めた内容に僕の意見も取り入れて方向性を決めて、一のせが作った素材を拾い上げて制作していくという流れでしょうか。わかりやすく言うと、彼女がキャラクターデザインと演出という感じです。パソコンの処理(After Effects)は基本的に僕です。アニメートは二人で分担しますが、僕と彼女だと動かし方が違うため場面に応じて使い分けます。
──動かし方とはどういうことなのでしょうか?
動かし方(アニメート)にも個性があるんです。アニメーションは描き方に「送り描き」と「中割り」の2種類があるのです。だいたいの現場は「中割り」で作られることが多いです。
「中割り」というのは、まずは動きの始点と終点にキーフレームの原画を描いて、その始点と終点の動きの間に、スムースでなめらかな動きになるような絵を描いていくんです。僕は作品を作るときは主に「中割り」なんですが、一のせは、パラパラ漫画のように1枚目を描いたら次の絵、というように順番に描いていく「送り描き」をするんです。商業アニメは演出にもよりますがキャラクターを「送り描き」で描くことは少ないと思います。個性が大事な個人作家には良い持ち味になりますね。
「送り描き」は動きに癖がでるので、キャラクターの動きにリズムが出て面白いんですよ。お互いの個性の違いを活かしながら、デコボーカルというユニットを一緒にやっています。
一のせ皓コさんの作品「TWO TEA TWO」
デコボーカルの作品「最後の森はじまりの人」
──これから取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
やっぱり、子どもたちと一緒に作品を作り出す、ワークショップのような活動をもっと広げていきたいです。今は自分の作品を作る時間があまりとれない状態ですが、個人の活動よりも、さまざまな人や地域との関わりの中で作っていくものに楽しさを感じているので、自分の作品はできるときに少しずつやりつつも、今はさまざまなコミュニティを生み出しながら、地域とつながっていく活動を続けていきたいです。
北杜市でのワークショップ「北杜で一日アニメーション!」
取材中、上甲さんに見せていただいた子どもたちとのワークショップで制作した作品は、子どもたちが真剣に楽しむ気持ちとプロの技が組み合わさり、短時間の間に撮影したものとは思えないほどのクオリティでした。
素晴らしい作品を生み出すためには、PC環境のカスタマイズは不可欠。「日々、技術はアップデートされているので、これからもっと気軽に動画制作を楽しめるようになるのでは?」と上甲さん。どのように変化していくのか、こちらも楽しみです。
Photo by_岩田えり