台湾のPCパーツメーカーThermaltakeにアレコレ聞いた! おとはの知らない自作PCの世界【後編】
【おとはすの自作やろうぜ!! 第8回】
自作PCの魅力を広めるべくスタートした「おとはすの自作やろうぜ!! 」。これまでにさまざまなことに挑戦して来ましたが、今回は「PCパーツメーカーさんのお話を聞いてみたい!」というおとはすの要望を叶えるべく、台湾のPCパーツメーカーThermaltakeさんにリモート取材を決行!
【前編】では、ThermaltakeさんのPCパーツメーカーとしての歴史や日本市場におけるシェアについてなどについて聞いたおとはす。【後編】では、コラボアイテムや台湾の自作PC事情など、自作PCマーケットについてお話を聞いていきます。おとはす考案のオリジナルPCケースへのコメントもいただきました!
十束おとはさん
アイドルグループ「フィロソフィーのダンス」メンバー。愛称「おとはす」。ファミ通4代目ゲーマーズエンジェルとしても活動し、ゲーマー・自作PC好きアイドルとして活躍中。ニッポン放送で放送されていたラジオ番組「十束おとは自作PCの世界」など、自作PC愛にあふれた活動も注目を集めている。2020年にメジャーデビュー、セカンドシングル「カップラーメン・プログラム」が大好評発売中!
YouTube「おとはすチャンネル」:https://www.youtube.com/c/otohasuchannel
Twitter:@ttk_philosophy
Instagram:https://instagram.com/otohasu/
フィロソフィーのダンスHP:https://danceforphilosophy.com
Thermaltake
1999年に台湾で設立された、PCケース、電源、冷却装置などのパーツを開発・発売しているメーカー。世界中のマーケットで人気のあるPCパーツメーカーだが、特に日本ではPCケース、電源などが人気。デザイン性に優れ、使いやすさとコストパフォーマンスの良さで、市場でのシェアも高い。日本では株式会社アスクが総代理店となっている。
公式Webサイト:https://www.thermaltake.com/
アスクのサイト:https://www.ask-corp.jp/products/thermaltake/
体験する場を提供して自作PCユーザーを増やしたい
おとはす:台湾にはPCパーツメーカーがたくさんありますが、実際のところ、自作PCユーザーは多いんですか?
江崎:全体的に見るとあまり多くありません。やはり「自作しようと思っても、どのようなパーツを選んでいいのかわからない」という声をよく聞きます。まだまだ、すでに組み込んであるPCを買うのが手っ取り早いと考える人が多いです。
PC-DIYのメリットは、たとえばCPUが壊れたらCPUだけを買えばいいですよね。性能を上げたいのならCPUとグラフィックボードを変えれば大幅にアップグレードできます。でもあまり詳しくないユーザーは、セットアップを間違ったり、組み込みに失敗したりするのが怖いですよね。恐怖感が好奇心より強いので、実際には自作するよりもすでに組み込んであるPCを買うケースが多いのかなと。
おとはす:その点は台湾も日本も同じですね。この連載は「自作PCユーザーをもっと増やしたい!」という私の思いからはじまっているのですが、江崎さんとRuruさんは自作PCユーザーを増やすためにはどうしたらいいと思われますか?
江崎:連載のこれまでの記事を拝見しましたが、PCにはどんなパーツが必要で、どのように組んでいくのかなどが詳しく、わかりやすく書いてありました。私たちも2015年くらいからショップさんと一緒に、PC-DIY教室などのイベントを開催しています。その頃に比べると徐々に広まっていて、「やってみよう!」と思ってくださるユーザーさんは増えていると感じてはいます。
さらに増やしていくためには、記事を読むだけでなく、イベントなど体験を通して実感していただくことが一番の近道なのかなと。そのためにはショップさんと協力して場所を借りたり、人を集めたりしなくてはならないので、ショップや代理店、メディアの力を借りながら広めていきたいですね。
Ruru:例えば、タイではショップの方向けに、一斉に水冷PCの組み立てを体験してもらうイベントを行いました。
おとはす:すごいイベントですね!(笑)
Ruru:結構時間がかかりました。10時間以上かかりましたね。
おとはす:10時間! すごい光景ですね(笑)。
タイでの水冷自作PC組み立てイベントの様子 |
江崎:またマレーシアのネットカフェを当社でサポートして、当社の水冷自作PCをおいてもらうなどの活動も行っています。そういうことで自作PCに親しんでもらえる機会を増やしています。
ド派手なPCが並ぶマレーシアのネットカフェ |
おとはす:マレーシアのネットカフェってこんなに派手なんですか?
江崎:派手ですね。東南アジアのネットカフェはわりと派手なんですよ。いくつかThermaltakeがサポートしているネットカフェがあるのですが、ものすごい派手です。日本で言うと秋葉原にある「ガレリア」がすべてThermaltakeの商品のカフェになっているような感じです。
おとはす:カオス!(笑)日本にはないですよね。
江崎:ないです。日本でもやってみたいとは思っていたのですが、今まで機会がありませんでした。ぜひ派手なThermaltakeカフェをやってみたいですね。
おとはす:実現したらぜひ行きたいです!
江崎:ぜひ! やはりイベントなどを通して必要な人に必要な情報を届けることが大切ですよね。例えば、私の親世代ならノートパソコンで十分かもしれませんが、YouTuberをやってみたい方には、「グラフィックカードを変えれば効率が上がる」というような、PCの使用目的に合った必要な情報を発信できれば、自作PCのメリットも認知されていくと思うんです。
おとはす:PCパーツを開発するときには、ユーザーの声をどのように拾っているのでしょうか?
江崎:コロナ以前は定期的にショップにお伺いして、お客様の反響を教えていただいていました。新製品発表会やPC-DIYの体験イベントなども行っていたので、その際にエンドユーザーさんからの「こんな商品を出してほしい」といった声も聞けていたんです。やはり使っていただいている方の声はとても大事ですから。現在はショップへの訪問もイベントもむずかしいので、SNSなどにあるファンページに寄せられたユーザーさんからの声をフィードバックして開発に生かしています。
おとはす:ユーザーはSNSを通じて自分の声を届けられるんですね。
江崎:そうです。私ももともとはユーザーで、声を聞いてほしいという思いが強かったので、今は担当者としてユーザーの声を大切にしたいと思っています。
自動車メーカーや初音ミクなど、世界中でコラボを展開!
おとはす:Thermaltakeさんでは、これまでにさまざまなコラボレーションを行ってきたそうですが、実際のコラボ例を教えていただけますか?
江崎:PCメーカーとのコラボはもちろん、それ以外のジャンルのメーカーなどともグローバルなコラボレーションをしています。例えば、2009年には自動車メーカーのBMWとコラボしたPCケースをリリースしました。
おとはす:なんだか未来的でかっこいいです!
Ruru:ほかにも創立20周年のときには、某海外自動車メーカーとのコラボで限定PCケースをリリースしています。
Ruru:それ以外でも海外では国ごとに各自NVIDIAやインテル、AMDなど、他のパーツメーカーとのコラボレーションも行っています。
NVIDEAやインテル、AMDなどとコラボしたモデル例 |
おとはす:カッコいいコラボレーションモデルがいろいろあって欲しくなります。
江崎:その他、日本では初音ミクとのコラボでさまざまな製品を発売しています。
おとはす:実は……私も初音ミクが大好きなので、いくつか持っています!
江崎:ありがとうございます! 初音ミクとのコラボは、日本で数量限定販売を行っていて、直近では2020年にリリースした製品のほか、2018年から2019年にかけてもいくつか展開しています。Snowミクとのコラボは北海道限定の製品です。
おとはす:コラボのきっかけはどんなことだったのですか?
江崎:2015年くらいから、「今後、PC-DIYマーケットはどのようにしたらもっと多くの方に受け入れてもらえるか」をショップさんや代理店さんと相談していたんです。そのときに取引先のツクモさんから、「何かとコラボしたら面白いんじゃないですか?」というお話をいただいたんです。
初音ミクは音楽ソフトなのでノートPCでやっている方もいますが、デスクトップを使っている方も結構多かったんです。そこからクリプトン・フューチャー・メディアの方とも話し合い、「PCケースを出してみても面白いんじゃないか」ということになり、コラボレーションの機会をいただくことができました。話し合いが始まったのが2016年くらいなので、実際に商品がでるまで2、3年かかりました。
おとはす:すごく時間がかかっているんですね!
おとはす:実際のところ、売れ行きはどうだったんですか?
江崎:即完売でした! 数量限定にしていたのですが、初音ミクの威力は本当にすごいと実感しました。
おとはす:おおー!!(拍手するおとはす)
おとはす考案のオリジナルPCケースの評価はいかに!?
おとはす:私が考えたPCケースについてご意見をいただきたいのですが……。
江崎:もちろん、喜んで!
おとはす考案!こんなPCケースは作れる?
①全体が光るPCケース
江崎:電源を入れると全体が光るPCケースは実際にあります。ただしこれはフロントパネルなどにLEDを埋め込んで加工する必要がありますね。先ほどご紹介したモッダーさんによるMOD-PC(改造したPC)でやっている人はいるので、可能だと思います。
②柄や色がカスタマイズできる
江崎:色や柄のカスタマイズは車を買うときみたいなことですよね? 台湾でならできますが、他の国ではショップさんや代理店さんがパーツを仕入れて在庫を持たなくてはいけないのでむずかしいかもしれません。以前、パーツを選んでもらい、カスタムPC組立代行専門店の「MOMA GARAGE」さんで組み立ててもらうというサービスがツクモさんであったと思います。協業すれば新しいビジネスとして展開できるのではないでしょうか。
③木製のケースは作れる?
江崎:木製のケースですが、木でPCケースを1から作っている方が台湾にいらっしゃいます。今回、直接メールで伺ったところ、木製だと熱の問題などがあるので、さまざまな対策をしているそうです。
④外側にエアプランツを生やす
江崎:エアプランツはできると思いますし、見たことがあります。ただ、PCは温かいので植物が育ってしまうんです。伸びた植物がファンなどに巻き込まれてしまう恐れがあり、植物が切断されて内部の水分がマザーボードなどについたらショートしてしまうので気をつけないといけないですね。
⑤ディスプレイファンを連動したい!
江崎:ホノグラムが浮かぶというのもできますし、実際にあります。ディスプレイファンを側面や上部につければホノグラムを浮かぶことができますし、ケース内部に浮かんで見える疑似ホノグラムもあります。
⑥USBケーブルだって光らせたい!
江崎:USBを光らせることはむずかしいです。USB自体は5Vの電圧で動作するのですが、LEDを光らせるとその分電圧が下がり、接続した機器がきちんと動かなくなります。HDMIケーブルにも光るものがあるのですが、LEDを光らせることで信号に影響が出ることがあり、技術が進化しないとむずかしいので、もう少し先じゃないでしょうか。
⑦人形の家のようなケース
江崎:人形の家は問題がありそうです。PCのケースに人形を置くことはできると思いますが、人形の家をPCケースにするとパーツが干渉してしまうので、ドールハウスのような形のPCケースとなると技術的にむずかしいですね。これは製造、開発ではなく、改造の領域になると思います。
おとはす:丁寧なコメントありがとうございます! 私のイチオシは人形の家だったのですが、むずかしそうですね……。
江崎:モッダーさんでできる人はいるかもしれませんが(笑)。今回アイデアをいただいて、いずれ機会がありましたら何かコラボレーションできたら面白いなと思いました。私たちもPC-DIYを広めたいという気持ちを持っていますので、業界全体を盛り上げる意味でも何か実現できたらいいですよね。ただ、PCケースの場合、貿易条件など現実的なことが関わってくるので、私の判断だけで「コラボやりましょう!」とは即答できませんが、ぜひ一緒に広めていきましょう!
おとはす:はい! 頼もしい! 最後に、Thermaltakeさんの社風や良いところを教えてください。
江崎:弊社は一般的な会社と違い、お堅いところがなくて自由な社風です。上層部にも自由に発言ができますし、開発や他の部署などとも自由に意見を交換できるので働きやすい環境です。アメリカの会社ではよくありますが、アジアの会社ではこういうところは少ないのではないかと思います。
Ruru:自由にアイデアを出して、江崎さんや他の人たちとアイデアを検討できる、働きやすい環境です。
おとはす:そういう自由な風土が、斬新なデザインの製品を生み出しているのですね。今日は長い時間ありがとうございました。次はぜひ台湾に伺いたいです!
江崎・Ruru:お待ちしています!
今回の取材をするにあたり、膨大な資料を用意して丁寧に回答してくださった江崎さんとRuruさん。そのおかげで、台湾の自作PC事情や初音ミクコラボの誕生秘話など、さまざまなお話を伺うことができました! おとはすのアイデアに対しても真摯にお答えいただき、自作PCを広めるためのヒントになるお話もたくさん飛び出しました。
日本でも台湾でも自作PCを盛り上げていきたいという気持ちは同じ。おとはすとのコラボが実現する日も来るかもしれません! この記事を読んで興味を持っていただけたら、ぜひ自作PCの世界の扉を開けてみてください!
PHOTO BY_橋本千尋